【日本製】無添加・原料まで国産のお香が消えかけている。椨粉を守る福岡の香司

お香を選ぶとき、原料の産地まで気にしたことはありますか?私はありませんでした。香りが好みかどうか、価格はいくらか。判断基準は、せいぜいその程度です。

そんな私の手を止めたのが、Threadsで見かけた一本の投稿。2025年9月23日、福岡のお香ブランド「CRYSTAL INSENCE」を手がける香司、柴垣道宏さんが書いたものです(会社名:キャンプ女子株式会社)。冒頭の一文は、こうでした。

国産・無添加のお香は、もう日本ではほとんど残っていません

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この投稿には、2万を超える「いいね」と889件のリポスト、141件のコメントが集まりました。

お香という地味なテーマで、この反響。コメント欄には、値段や買い方を尋ねる声が並んでいます。投稿者本人が、ひとつずつ購入方法を案内する場面も。気になって、ブランドの発表資料や公式サイトを読み込みました。

そこで見えてきたのは、一人の香司が抱える強い危機感と、それに向き合う具体的な行動です。数字と事実を軸に、中身を整理します。

【日本製】無添加・原料まで国産のお香について

投稿が訴えていたこと

柴垣さんの投稿は、短い文章に主張が詰まっています。防腐剤や香料を入れれば、お香は簡単に大量生産できる。けれど、それは大切な人に吸ってほしくない香り。

だから自分は、わずかに残る九州産の無農薬の椨(タブ)を生産者から譲り受け、手作業を続けている。要約すると、そういう内容です。

ここで断っておくと、この投稿は添加物の安全性を科学的に論じたものではありません。作り手が自分の基準を語った、価値観の表明です。本記事でも、市販のお香の良し悪しには踏み込みません。

「お香 国産」で検索すると5,504件。矛盾していないのか

「国産」の言葉の裏側

ここで、当然の疑問が浮かびます。楽天市場で「お香 国産」と検索すると、2026年10月4日時点で5,504件がヒット。

淡路島は国内生産量の約7割以上を占める産地として知られ、松栄堂や日本香堂といった老舗の商品も並びます。国産のお香が「ほとんど残っていない」とは、とても思えません。

矛盾の正体は、言葉の範囲です。検索結果の商品名を見ると、「国産」「日本製」の多くは、製造した場所を示す表記に見えます。そこに「天然香料」「天然由来香料」と添えられたものが目立ち、原料の産地までは商品名から読み取れません。

ポイントは、同社が掲げる「無添加・原料も国産」という条件。博多阪急に出店した際のプレスリリースも、「無添加・原料も国産のお香は、いま日本にごくわずか」と題されていました。

投稿の一文は、この条件を省いた形と読むのが自然です。日本で作られたお香が減った、という話ではありません。

そもそも「椨粉」とは何か

お香の骨組み「椨粉(たぶこ)」

お香の多くは、香りのもとになる粉を棒状に固めてつくります。そのつなぎ役が、タブノキの樹皮を粉にした「椨粉(たぶこ)」。水を加えると強い粘りが出る性質があり、昔から線香やお香の結合材に使われてきました。

いわばお香の骨組みです。同社の発表資料は、この椨粉の多くが海外製品に置き換わり、九州では数えるほどしか残っていないと述べています。

国産の椨粉を水車で挽く製粉所は、日本に2社

消えゆく国産原料

同社のプレスリリースには、具体的な数字が並びます。

  • お香原料の9割以上は海外産
  • 国産の椨粉を水車で挽いている製粉所は、日本に2社
  • 関係者の見立ては「このままだと、あと5年でなくなると思う」

2社。指で数えられる数字です。しかも「あと5年」という声まで出ている以上、軽く流せる話ではありません。

ただし、これらはブランド側の発表です。私が調べた範囲では、第三者の統計や調査による裏付けは見つかりませんでした。それでも、具体的な数字を出して危機を訴える姿勢には、一定の説得力があります。

化粧品メーカー勤務から、福岡のお香づくりへ

福岡発。口コミで広がるお香

柴垣さんは1987年、愛知県の生まれ。大手化粧品メーカーに勤めたあと、週末のキャンプを通じて自然への関心を深めていきました。2019年にキャンプ女子株式会社を設立し、拠点は福岡へ。2024年には、お香ブランド「CRYSTAL INSENCE」を立ち上げています。

ブランドのコンセプトは「NATURE, IN A MOMENT(自然を、ひとときに)」。工程は、植物を調合し、練り、一本ずつ成形するというシンプルなものです。化学香料は使わず、天然水晶を配合しているのも特徴です。

お香ブランドの始動は、会社設立から5年後の2024年。販売開始の2024年5月から2026年9月30日までの累計は、35万本。2026年3月時点では25万本だったので、半年で10万本増えた計算になります。同社は、広告ではなくSNSの口コミを中心に広がってきたと説明しています。

「完全国産」は、どこまでを指すのか

本当の「完全国産」5つの香り

同社が「完全国産お香」と呼ぶのは、香りの主役になる木、つなぎの椨粉、練る水まで、すべて国産でそろえたもの。シリーズは5つです。

  • 第1弾 八女杉(福岡県八女)
  • 第2弾 屋久杉(鹿児島県・屋久島)
  • 第3弾 高千穂杉(宮崎県高千穂の杉の葉)
  • 第4弾 檜
  • 第5弾 青森ヒバ(青森県)

第5弾の青森ヒバは、2026年10月30日に公式オンラインショップで数量限定の発売予定。価格は7,700円(税込)で、約60本入りです。

一方、パロサントとホワイトセージのお香は、この完全国産シリーズに含まれていません。「国産・無添加」という言葉だけで一括りにせず、商品ごとの説明を確かめたいところです。

畑から作り直す。タブノキは100年先、ホワイトセージは3年先

目先の売上より、100年先の森

柴垣さんは、訴えるだけでは終わらない。お香の原料そのものを、福岡の畑で育てる計画が進行中です。

  • タブノキ:樹皮が採れるまでに数十年。「100年先の森づくり」を掲げ、糸島の農園への植樹を開始
  • ホワイトセージ:糸島市と福岡市東区の畑に苗100本を植樹。1年目は株を育て、2年目の秋に初収穫、3年目にホワイトセージを使った国産原料のお香の完成を目指す

時間軸が、とにかく長い。ホワイトセージでも3年、タブノキに至っては数十年です。目先の売上だけを考える人の設計ではありません。

この挑戦は、福岡市のソーシャルスタートアップに認定されました。令和8年度の成長支援補助金で、認定企業は5社。原資はふるさと納税です。あわせて、ふるさと納税forGoodでの寄付も10月末まで受け付けています。目標は30万円で、返礼品には明太子や博多和牛が並びます。

取扱店の募集も始まった

安売りはしない。3つの約束

取扱店の募集は、2026年10月1日にスタート。条件は3つ。

  • 自然の素材や暮らしの道具を扱うお店であること
  • 香りの由来(どこで、だれが、何でつくったか)を、手に取った人に一言添えられること
  • 値引きをせずに置くこと

少量を手でつくっているため、大量発注や安売りを前提にした取引は受けていません。現時点の取扱店は、福岡の「AND THE SOIL.」と、東京・代官山の「MARTE DAIKANYAMA」の2店です。

「国産・無添加」のお香を買う前に知っておきたいこと

公式ショップの単品は、1種類6,600円(税込)で約60本入り。1本あたり約110円の計算です。3種類を20本ずつ組み合わせたアソートセットは、11,000円です。

決して安い買い物ではありません。2025年9月の投稿のコメント欄では、手づくりで生産数に限りがあり、お届けまで待つ必要があると案内されていました。今すぐ欲しい人には、向かない買い物です。

もうひとつ。香りの好みや体質との相性は、人それぞれです。「国産・無添加」は、その相性を保証する言葉ではありません。換気をしながら、少量から試すのが無難でしょう。

決して安くないし、すぐに届かない

楽天で探すなら:無添加の国産線香という選択肢

CRYSTAL INSENCEは手づくりのため、数量に限りがあります。近い条件の国産品を楽天市場で探すなら、福岡県八女の馬場水車場が手がける「杉の葉線香」が候補です。

販売店ストーンベルの商品ページには、原料は杉の葉のみで、つなぎ・添加物は使わず、無添加・無着色・無香料と書かれています。製造は水車で挽く伝統的な製法。価格は3把詰で2,380円(送料無料)、レビュー評価は4.79(19件)。

いずれも2026年10月5日時点の表示です。どちらが優れているかを比べる話ではなく、選択肢のひとつとして挙げておきます。

森の香りに包まれる。馬場水車場の杉の葉線香
日本製 無添加お香

森の香りに包まれる。馬場水車場の杉の葉線香

★★★★☆
4.8
(19件)
¥2,380

化学物質不使用で、敏感な方も安心して使える
100年変わらぬ製法で丁寧に手作りされた逸品
部屋焚きから仏壇まで、場面を選ばず活躍

⇒楽天市場の「お香 国産」ページ

まとめ:国産・無添加のお香は、原料まで見て選びたい

  • 香司の柴垣道宏さんが、Threads(2025年9月23日)で「国産・無添加のお香はほとんど残っていない」と訴え、2万を超える「いいね」を集めた
  • 楽天市場には「お香 国産」で5,504件(2026年10月4日時点)。ただし多くは製造地の表記で、同社が問うのは「無添加・原料まで国産」という条件
  • 同社の発表では、お香原料の9割以上が海外産。国産の椨粉を水車で挽く製粉所は日本に2社(第三者による裏付けは未確認)
  • 椨粉は、お香を棒状に固めるつなぎ。ここが国産で揃うかどうかが、「国産のお香」の分かれ目
  • 完全国産シリーズは5つ(八女杉・屋久杉・高千穂杉・檜・青森ヒバ)。パロサントとホワイトセージは対象外
  • 柴垣さんは、タブノキとホワイトセージを福岡の畑で育て、原料から国産に戻す取り組みを開始
  • 累計販売は35万本(2024年5月〜2026年9月)。単品6,600円(約60本)と価格は高めで、手づくりのため待ち時間もある

「国産・無添加」という言葉は、商品説明のあちこちで目にします。けれど、その原料をつくる製粉所が日本に2社しかないとしたら、言葉の重みは変わってきます。

お香は消耗品です。焚いて、香って、灰になる。だからこそ、一本の購入が、原料をつくる人を支える手段のひとつになる。大げさでしょうか。「あと5年」はあくまで関係者の見立てですが、一本の積み重ねが現実に響く話なのは確かです。

興味を持った方は、まず公式ショップで、気になる香りを一種類から。

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