捨てたアルミ缶が温泉を沸かす燃料になる日

アルミ缶を飲み終わったら、資源ゴミへ。

私たちにとっては、それで話は終わりです。

回収されたアルミは溶かされて、また何かに生まれ変わる。私も「リサイクルって、そういうもの」くらいに思っていました。

ところが、北陸のある企業について調べていて、ちょっと驚きました。

廃アルミから水素を作り、その水素で温泉のお湯を沸かしている。

……アルミ缶と温泉。

この2つが、どうしても頭の中でつながりません。

「アルミをリサイクルして新しいアルミ製品を作る」なら分かります。

それが水素になり、最後は温泉になる。

途中で何回か「どういうこと?」となりました。

ところが仕組みを知っていくと、これが単なるリサイクルの話ではないことが見えてきます。

「捨てるもの」だったアルミから水素を作る

アルミを水に浸すだけで水素が生まれる

この技術を開発したのが、2013年に石川県で創業したベンチャー企業、アルハイテックです。

アルハイテックが目をつけたのは、廃棄されるアルミニウム。

アルミ加工の現場などから出る端材やクズを、水酸化ナトリウムをベースにした反応液に入れることで、水素を発生させます。

化学反応を利用しているので、アルミそのものを燃やすわけではありません。

ここが、最初に聞いたときには分かりにくいところでした。

アルミから水素が出てくる。

言葉だけ聞くと、ちょっと不思議です。

でも、アルミニウムは水と反応することで水素を発生させる性質を持っています。

必要なのは浸すだけ。電力、熱、CO2ゼロ

アルハイテックは、その反応を利用して、廃アルミから水素を取り出す仕組みを開発したわけです。

しかも、使うのは新品のアルミではありません。

これまでなら処理や再利用の対象になっていた廃アルミです。

つまり、

「ゴミをどう処分するか」から、「ゴミから何を作れるか」へ発想を変えた。

ここに、この技術の大きな特徴があります。

ゴミを減らすだけではなく、エネルギーに変える

反応液は使い捨てじゃない

リサイクルというと、一般的には「資源をもう一度使う」というイメージがあります。

アルミなら、回収して溶かして、新しいアルミ製品にする。

もちろん、それも大切な循環です。

ところがアルハイテックが目をつけたのは、そこからさらに先。

廃アルミを水素製造の原料として利用することで、エネルギーを生み出す側に回してしまうのです。

「このアルミ、捨てるにはまだ早いんじゃないか」

そんな発想から始まったと考えると、ずいぶん身近な話に見えてきます。

そして、もう一つ気になるのが反応液です。

一度使ったら終わりではありません。

約100回繰り返して使用できるように設計されています。

せっかく廃アルミを有効利用しても、そのたびに大量の副資材を捨てていたら、循環とは言いにくい。

だからこそ、繰り返し使える仕組みまで含めて考えられているわけです。

そして2023年、本当に温泉が沸いた

実際に温泉が湧いた日

ここまでは「廃アルミから水素を作る技術」の話です。

これだけでも十分に興味深いのですが、さらに話が一歩進みます。

2023年5月、北陸のレジャー施設で、廃アルミから作った水素を利用してお湯を沸かす「温泉パッケージ」が稼働しました。

ここで一気に話が身近になります。

水素を作りました。

研究室で確認しました。

実験に成功しました。

……では終わらない。

実際に、その水素でお湯を沸かした。

しかも温泉です。

水素エネルギーというと、どうしても「未来の話」という印象があります。

燃料電池車や水素ステーション、大規模なエネルギー設備などを思い浮かべる人も多いでしょう。

ところが、こちらはもっと身近です。

お湯を沸かす。

日本人なら、その用途を聞いた瞬間にイメージできます。

温泉に入っているとき、

「このお湯、何で沸かしているんだろう?」

なんて、普通は考えません。

ところが、その熱源をたどっていったら、もともとは廃アルミだった。

そう考えると、なかなか壮大な話です。

昨日のゴミが、今日の「はぁ〜」になる

2023年5月、稼働開始

少し想像してみます。

温泉に入って、

「はぁ〜」

と肩まで浸かる。

そのお湯を温めているエネルギーのもとが、どこかで捨てられたアルミだったとしたら。

昨日まで誰かにとっての廃棄物だったものが、今日は誰かの体を温めている。

「循環型社会」という言葉だけ聞くと、どうしても堅苦しく感じます。

けれど、

アルミ → 水素 → 熱 → 温泉

と並べてみると、一気にイメージしやすくなります。

ゴミが消えてなくなるわけではない。

別の形に変わり、別の場所で役に立つ。

これなら「資源が循環する」という意味も、少し実感できます。

そして、温泉というのがまた絶妙です。

これが「工場の熱源として利用されています」と言われたら、少し専門的な話に感じます。

「温泉を沸かしています」と言われると、

「それ、実際に入れるんや」

となる。

エネルギーの話なのに、急に裸足で近づいてきます。

廃アルミ1グラムから約1リットルの水素

わずかなゴミが大きなエネルギーに

アルミから水素を作る研究は、アルハイテックだけが行っているわけではありません。

福岡工業大学の研究では、廃アルミ1グラムから約1リットルの水素を生成できることが確認されています。

この数字だけを見ると、

「1グラムで1リットル?」

と驚きます。

もちろん、実際に事業として利用する場合には、廃アルミの回収や異物の除去、設備、反応液、水素の利用方法など、さまざまな条件を考える必要があります。

アルミを集めれば、何もしなくても大量のエネルギーが手に入る、という話ではありません。

そこは魔法ではなく、技術です。

それでも、これまで廃棄物として扱われていたアルミから水素を作り、それをエネルギーとして利用する道が、すでに実際の設備で形になっている。

この事実は大きいと思います。

「ゴミを見て、ゴミだと思わなかった人」がいた

見方を変える勇気

今回、この話を追いかけていて一番印象に残ったのは、水素そのものではありません。

もっとシンプルなことです。

誰かが、廃アルミを見て「まだ使える」と考えた。

普通なら、

「アルミのクズが出た」

で終わります。

そこから、

「これを何とか利用できないか」

と考える。

さらに、

「水素を作れないか」

となる。

そして最後には、

「その水素で温泉を沸かそう」

となる。

最初から温泉を目指していたわけではないのかもしれません。

一つひとつの技術を積み上げた先に、温泉という分かりやすい利用方法があった。

そう考えると、この話の主人公は水素ではなく、**「見方を変えたこと」**なのかもしれません。

同じアルミでも、

「捨てるもの」と見るか、

「まだ使える資源」と見るか。

それだけで、その後の道がまるで変わります。

アルミ缶を捨てるとき、少しだけその先を考えてみる

いつかこの缶も誰かを温めるかもしれない

もちろん、家庭から出したアルミ缶が、そのまま温泉施設に運ばれて水素になるわけではありません。

そこはきちんと分けて考える必要があります。

今回の技術の中心にあるのは、アルミ加工などで発生する廃アルミを有効利用する仕組みです。

それでも、私たちの暮らしから出る「捨てるもの」の見方を変えるきっかけにはなります。

アルミ缶を飲み終わる。

資源ゴミに出す。

そこから先は知らない。

今まではそれで終わりでした。

でも、その先には、

回収する人がいて、

加工する人がいて、

研究する人がいて、

新しい利用方法を考える人がいる。

そして、その先で温泉のお湯まで沸かしている。

そう考えると、資源ゴミの日が少しだけ違って見えてきます。

ゴミは、ゴミ箱に入った瞬間に価値を失うわけではない。

まだ使い道を知らないだけかもしれない。

アルハイテックがやっているのは、そんな「捨てられるもの」の可能性を、技術によって引き出すことなのだと思います。

次にアルミ缶を資源ゴミに出すとき、

「これもいつか、どこかで誰かを温めるのかな」

くらいは考えてみてもいいかもしれません。

ただし、缶に話しかけるのはほどほどに。

近所の人に心配されます。

参考にした情報源